ミレーの「晩鐘」L'Angelus

一組の男女が畑で祈りを捧げています。
夕刻の鐘 L'Angelus が鳴って今日の一日の農作業の終わりに何を祈っているのでしょうか。
この絵画のフランス語のタイトルはL'Angelus
まさにこの言葉がセヴラックのピアノの組曲「ラングドック地方で」の楽譜のなかに出てきます。
L'Angelus du soir(夕べの鐘),L'Angelus de l'aube (夜明けの鐘)、その他にも鐘の音がそこかしこに聞こえます。

L'Angelus とは西洋の文化にとってとても大切なものだそうです。
宗教的な意味があり、一日3回朝昼晩〜正確には8h03, 12h03 et 19h03には鐘が鳴り神に祈りを捧げるというのです。
このことを教えてくれた友人のミッシェルは建築家で一家は敬虔なカトリック。
彼の亡き母はL'Angelusの時のお祈りの文句(ラテン語)を暗唱していたといいます。
お祈りの文句を唱えているときになる鐘がアンジェラスの鐘=L'Angelus なのです。
1950年ごろまではごく当たり前のように行われてきたことですが、いまでは廃れてしまいこの習慣が残っているのは修道院の中くらいと言うわけです。
ヨーロッパの町には教会が必ずあります。
人々は常に鐘の音と共に生きていると言えましょう。

大都会では都会の喧騒にかき消されてしまうのかもしれませんが、
地方のなだらかな平野、はたまた山あいの村・・にはその鐘の音が響きわたり人々の生活にリズムを刻んでいることでしょう。


鐘の音は、お祈りをする時刻を告げ、1日の仕事を終わる時を告げ、そしてその後に来る瞑想の時間を告げる。
いうなれば思考や労働 - 農村では終わりなく続くつらい労働に - に一つの区切りをつけるサインであり、
一息ついて次の行動へと心を切り替える役割を果たすのです。
また、人々は教会の中にいなくとも、畑でその鐘の音を合図に神に祈り、仕事の手をやすめて家路につくのでしょうか。
鐘の音は彼らにとって、聖なるキリスト、聖母マリア様、そして主が「私たちをお守りくださる」という安らぎの響きでもあることでしょう。

ショパンのプレリュードの17番の中にも、マヨルカ島でショパンがジョルジュ・サンドの帰りを待つ間に聴いた鐘の音(バスの音)が
アンジェラスの鐘だというエピソードもあります。

リストはヴァイオリニストのニコラ・パガニーニの協奏曲の主題『ラ・カンパネッラ』を編曲して書いた
”ラ・カンパネラ” (リストが主題「ラ・カンパネッラ」を扱った作品は4曲存在)
は鐘を題材にしたもっともポピュラーな楽曲ですね。

セヴラックの各曲には鐘がいつもそこにあり、特に「ラングドック地方で」の第5曲目は
鐘の音+羊や牛などの家畜たちの首に付けた鈴の音も相まって、セヴラックの”ラ・カンパネラ”のように思うのです。
この曲を弾いていると、その時代のセヴラックが聴いた鐘の音、大気の振動、祭りの風景や人々の踊り・・・が蘇ってくるような気がするのです。

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