Home

フォン・ロムーで、教会の後ろはピレネー山脈
絵画的組曲「セルダーニャ」より  
第3曲 村のヴァイオリン弾きと村の女たち~ 「フォン・ロムーの思い出」~

    セルダーニュ地方 ”美しい秘境”

  <フランスとスペインの国境線~カタルーニャ地方>

セヴラック1枚目のCDの録音を録り終えたときにフランスの南部、スペインとの国境線付近セルダーニャ地方
(フランス語ではセルダーニュ地方)へ旅をした。
 どんなところなんだろう?!
リヨンから列車で出発しペルピニャンへ到着。スペイン領カタルーニャの街だったペルピニャンは、
駅前通りの椰子の街路樹や建物がスペイン風の雰囲気をかもし出している。
スペインとの国境を東西に走るピレネー山脈に平行して進む鉄道セルダーニュ線に乗り換え、
パブロ・カザルス音楽祭で有名なプラドを通り過ぎ、ヴィル・フランシュ・ヴェルンへ。
そこからトラン・ジョンヌ(黄色い列車)で山岳地帯を登ってゆく。
車窓はどこかでみたような景色だった。10月のセルダーニュ地方の紅葉は日光の山の風景のようだったり、
箱根登山鉄道に乗っているような錯覚を覚える。
ごつごつとしたむき出しの岩肌や、色とりどりの民家に、「ここは異国だ」と我に帰らされる。
野性味を帯びた風景が目に飛び込んでくる。内陸へ入るに従って雲が一掃され、薄くヴェールをかけたようなフランスの風景から、
あたりはより鮮やかになってゆく。強い太陽光線に照らし出された山々、金色の牧草地帯、フォン・ロムー駅に到着。
目の前に、美しい秘境が現れた。

 <音楽の中のサルダーナと人生>

絵画的組曲「セルダーニャ」-の第3曲”村のヴァイオリン弾きと落穂ひろいの女たち”
はサルダーナというダンスのスタイルを用いた作品のなかでもひときわ大きく炸裂する曲だ。
技巧を必要とするピアニスティックな曲である。セヴラックが伝えてくる音楽からは、
祭りの喧騒、底抜けに明るくリズミカルで激情がほとばしるような世俗的な部分と、教会から漏れてくる歌声は神聖
で、人々の祈り、人間の苦悩が見え隠れする。アルベニスのイベリア第1集第3曲のセビーリャの聖体祭を思い出す。

サルダーナとは輪になって踊るカタルーニャの踊り。
今でも日曜日の昼下がり、バルセロナのカテドラル前広場などを通ると目にするが、人々が大きな輪をつくって踊るという。
カタルーニャの大地は、イベリア半島の歴史のなかでイスラム東洋とキリスト教西洋の支配の興亡が繰り返されてきた。
人々は粘り強い精神性をもち、バスク地方と同様に独自の言語や文化に誇りを持ちスペインの他の地域と画一化されることを拒む。
カタルーニャ民族の団結の儀式ともいうべきこの踊りの歴史は古く、起源は古代ギリシャにさかのぼる。
歴史の流れのなかを生き抜いてきた人々の魂がしみこんでいるような気がする。

セヴラックは、少なからず”サルダーナ”を作品の中で用いるのだが、彼が1910年に居を据えたフランスの南端ピレネー・オリエンタル地方セレは、民族舞踏サルダーナのメッカでもある。
1910年パリから帰郷したセヴラックはこう語った。
「僕はパリでは根無し草だったが、故郷に帰って、祭りで踊って、我に帰った」と。